2012-03-23 小規模宅地特例(平成22年改正)の課税強化に対する対策
−事業・居住を継続しない宅地等の軽減措置の廃止
1.事業・居住を非継続の場合は軽減措置を廃止した
「相続人等が相続税の申告期限まで事業または居住を継続しない宅地等」は小規模宅地等の範囲から除外され、200uで50%の減額は、不動産貸付業等の用に供されていた宅地等で申告期限までの事業が継続されていた場合のみが対象となりました。
改正前では、相続人が事業または居住を継続しない場合でも、限度面積200uまでなら50%評価減が適用できましたが、改正後は事業でも居住でも、「非継続」ならば原則として特例が使えなくなりました。
宅地等 | 上限面積 | 軽減割合 | |
---|---|---|---|
事業用 | 事業継続 | 400u | ▲ 80% |
※事業非継続 | 200u | ▲ 50% | |
不動産貸付 | 200u | ▲ 50% | |
住居用 | 住居継続 | 240u | ▲ 80% |
※住居非継続 | 200u | ▲ 50% |
宅地等 | 上限面積 | 軽減割合 | |
---|---|---|---|
事業用 | 事業継続 | 400u | ▲ 80% |
不動産貸付 | 200u | ▲ 50% | |
住居用 | 住居継続 | 240u | ▲ 80% |
2.改正の内容
- (1)特定事業用宅地等
- 被相続人の事業用宅地等(「(4)」の貸付事業用宅地等を除く)を取得した親族が、相続税の申告期限まで被相続人の事業を承継し、かつ、その申告期限まで事業を営んでいる場合
- 被相続人と生計を一にする親族で、その宅地等を取得した者が相続開始前から相続税の申告期限まで、本人の事業の用に供している場合
- (2)特定同族会社事業用宅地等
- 被相続人が主宰していた同族会社の事業の用に供されていた宅地等を取得した者が、一定の要件を満たした上で、相続税の申告期限まで引き続きその会社の事業の用に供している場合
- (3)特定居住用宅地等
- 被相続人の配偶者が取得した場合には、居住・保有の継続の要件はありません。従って、相続直後に売却しても、小規模宅地の特例が適用されます。
- 被相続人と同居していた子などの親族がその宅地等を取得し、相続税の申告期限まで保有し居住を継続している場合
- 被相続人の配偶者または同居親族(相続人)がいない場合(つまり、被相続人が1人暮らしまたは相続人でない孫などと同居していた場合)において、相続開始前3年間、本人または本人の配偶者所有の家屋に居住したことがない親族が取得し、相続税の申告期限までにその宅地等を保有している場合
- 被相続人と同居していた子などの親族がその宅地等を取得し、相続税の申告期限まで保有し居住を継続している場合
- (4)貸付事業用宅地等
- 被相続人の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業等の用に供されていた宅地等を相続した親族が、相続税の申告期限までに被相続人の賃貸事業等を承継し、かつ、その申告期限までその事業を営んでいる場合
- 被相続人と生計を一にする親族で、その宅地等を相続した者が相続前から相続税の申告期限まで、本人の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業等の用に供している場合
3.特定同族会社事業用宅地等として利用する方法
- (1)無償使用は貸付事業用にはならない
- 長男が既に自宅を所有しており、配偶者が自宅を相続しないと決めている場合、父親が所有している土地建物を、父親と生計を別にしている次男が、無償使用で本人の事業用に利用している場合には、小規模宅地の評価減は受けられません。
- (2)生前から子供が家賃を払っていても駄目なのか
- 被相続人の貸付事業用宅地等に該当するには、@貸付事業の承継A事業継続B所有の3つをすべて満たす必要があります。仮に使用している次男がその敷地を相続したとすると、賃料の支払の必要がなくなり貸付事業が継続できなくなります。
- (3)特定同族会社事業用宅地にする
- そこで、生前に次男が営んでいる事業を法人化し、次男が法人の役員に就任し、特定同族会社事業用宅地としての条件を整える必要があります。
4.利用区分が同一の宅地を共同相続した場合はどうなるか
- (1)同一の宅地等について共同相続があった場合
- 取得者ごとに小規模宅地等の判定を行います。改正前は共同相続人の中の一人が適用要件を満たしていれば、他の共同相続人の評価額も減額されましたが、改正後は個別で判定し計算されます。
- (2)共同相続してもそこに居住しない場合
- 被相続人の居宅を配偶者とそこに居住しない子が共同相続する場合では、改正後は取得者ごとに適用要件を判定し、下記の事例では、子には評価減は適用されません。これは事業用についても同様です。
- 【事 例】 80%の減額要件を満たす者(配偶者)と満たさない者(居住しない子)が、宅地を共同相続する場合
5.上記「4.」に対する対策は次の通り
- (1)申告期限後に売却予定の場合
- 改正前は被相続人の居住用宅地について、節税のために配偶者と居住しない子が共有で取得することもしばしば行われてきました。しかし、今回の改正で居住しない子が共有で取得するメリットがなくなりました。但し、申告期限後に、売却する予定があれば、居住用財産を家を持っていない相続人が共有で取得して居住を継続する方法があります。
- (2)譲渡所得が安くなる
- 将来2人で譲渡すれば、それぞれが居住用財産を譲渡した際の3千万円特別控除の適用が受けられます。手許にお金が多く残れば、他の相続人に対して分割協議で代償金を払う旨を決めておけば争族も避けられます。
- (3)80%の減額を受けるための確実な対策は「生前から親と子が同居」することに尽きます。
- (4)老人ホームへ入居した場合
- 同居親族もいない親が特別養護老人ホームには入居せず、それ以外の介護付終身利用権付の老人ホームへ入居した場合は、自宅は空家となってしまい、評価減は適用されません。この場合、賃貸の用に供することにより200uまで50%の減額が認められます。
- (5)遺言書を見直す
- 長男が別の場所に自宅を所有しているにもかかわらず、遺言書では自宅の敷地を配偶者と長男で
1/2の共有持分で相続させるようになっていれば、その見直しが必要になります。
- 長男が別の場所に自宅を所有しているにもかかわらず、遺言書では自宅の敷地を配偶者と長男で
- (6)評価額の高い場所での資産の組み換えを検討
- 郊外で自宅敷地が広い場合は、老後のライフスタイルの変化も考えて、売却の上都心の評価額の高い場所で自宅や賃貸マンションを組み換えて、小規模宅地の減額を多額に受けることを考慮してもいいのでは。
6.一棟の建物に居住用・貸付用がある場合は用途ごと判定
- (1)用途ごとに判定
- 賃貸併用住宅などの一棟の複合建物については、改正前では一部でも特定居住用部分があれば、その他の部分もあわせて240uまで80%減額が適用されていましたが、改正後は用途ごとに減額割合を計算します。
- (2)床面積按分が必要
- 即ち、特定居住用宅地等の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には、部分ごとに床面積按分して軽減割合を計算します。
- 【事 例】 宅地の上に存する一棟の建物のうちに、居住用と貸付用がある場合
これはマンションやアパートの一室にオーナーである親が住み、残りの部屋を貸している場合
7.上記「6.」に対する対策は次の通り
- (1)複合建物は賃貸割合を増やす
- 評価減ゼロにならなくするには、被相続人が生前から居住用の家をアパートなどに建て替えるか、改築の上、大半を貸付用にする方法しかありません。
- (2)空室割合を減らす努力が必要
- この改正はマンションやアパートの一部を自宅とし、大半を貸付用に利用している大家さんにとっては厳しいものになっています。そこで、相続発生時には空室がないように、仮に空室があったとしてもそのまま放置しておかずに、不動産業者を通じて入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態にして空室を管理しておく必要があります。出来れば、賃借人の募集を依頼していたことの証拠として不動産会社の押印のある「賃貸物件の斡旋申込について」という書面を保管しておくことも必要です。
- (3)老人ホームの費用捻出で一石二鳥を狙う
- ライフスタイルの多様化で子が親と同居しない今は、一次相続では子供よりも適用条件のない配偶者が自宅敷地を単独で相続し、その後に老人ホームへ入居することになれば、介護費用の収入源を兼ねて貸付事業用宅地へとその利用を変更する方法も考えられます。
但し、二次相続では子供が自宅敷地を相続して、果して小規模宅地の評価減が受けられるかどうか、その条件を整えておく必要があります
- ライフスタイルの多様化で子が親と同居しない今は、一次相続では子供よりも適用条件のない配偶者が自宅敷地を単独で相続し、その後に老人ホームへ入居することになれば、介護費用の収入源を兼ねて貸付事業用宅地へとその利用を変更する方法も考えられます。
8.被相続人等が居住の用に供していた宅地等が複数ある場合の特定居住用宅地等
- 被相続人等が居住の用に供していた宅地等が複数ある場合の特定居住用宅地等は、主として居住の用に供されていた一の宅地等に限られることが明確化されました。