個人の不動産取引と税務
a−30. 保証債務の履行による課税所得に対する裁判所の判断 その2

会社の債務について役員が個人保証を行い、不動産を処分して履行した場合の譲渡所得の課税について、過去の判例はどうなっていますか?


- @ 東京地裁平成4年3月18日の判決により借入金による保証債務の履行に注意
- 所得税法基本通達64−5によれば、本来ならば譲渡代金をもって保証債務を履行すべきであるが、資産の譲渡に長期間要する場合もあるので、やむを得ず借入金で保証債務を履行し、その後資産を譲渡して、その借入金の弁済に充てた場合等も救済できる措置なので、譲渡代金は別の債務の弁済に充て別途借入金で保証債務を履行しているときは、本特例の適用はないとされています。
- (1)所法64-2の規定は、保証債務を履行するために資産を譲渡したことが要件で、譲渡した資産は必ずしもその担保に入っていたものであることを要しません。
- (2)そこで、保証債務の履行をひとまず借入金で行い、その後その借入金を返済するためにおおむね1年以内に資産を譲渡した場合であっても、その譲渡が「実質的に保証債務を履行するため」のものであると認められるときは、保証債務を履行するための資産の譲渡として取り扱われています(所基通64-5)。
- (3)なお、不動産業用の販売用土地を売却してもこの特例の適用はありません(所法82@A)。
- A 最高裁平成5年3月2日判決により借入金で保証債務を履行したのちに資産を譲渡した場合
- 保証債務の履行を他からの借入金によって行い、その後その借入金を返済するために資産を譲渡したような場合には、その資産の譲渡は原則としてこれに該当しないが、資産の譲渡に長期間を要するような場合において、やむを得ず借入金でその保証債務を履行した後、社会通念上相当な期間内に資産を譲渡して借入金を返済するような場合等、実質的にみて保証債務の履行のための資産の譲渡と認められるものについては、例外的に同項の規定が適用されるものと解される。
- B 最高裁平成5年3月2日判決では預貯金で保証債務を履行したのちに資産を譲渡した場合
- 保証債務を履行した×月×日以前に土地の譲渡代金を全額受領し、この金員をもって定期預金を設定していたのであるから、定期預金を設定せずあるいは定期預金を解約して保証債務の履行に充てることが十分可能であったにもかかわらず、銀行の担当者からの要請があったとはいえ、敢えて別の定期預金を担保に借入れをして保証債務を履行し、その譲渡代金を定期預金として1年間にわたって運用し、定期預金の設定、運用に伴う有形無形の経済的効果を享受したものということができる。この場合には、実質的にみても保証債務の履行のための資産の譲渡があった、と認めることはできない。
- C 平成14年12月25日課資3−14外個別通達で中小企業庁よりの照合に対する回答
- 「求償権を放棄した後において会社が経営を継続している場合でも、代表者等が有する求償権が金融機関など他の債権者の債権と同列に扱うことが困難で放棄せざるを得ない状況にあったと認められ、かつ、求償権を放棄してもなお債務超過にあること」の要件を満たせば行使不能と判定されることになります。
